ゴー・アヘッド!

へたれ文章家、ウェアホースとその周りの人々が織り成す、ドタバタ冒険愛憎活劇(嘘) banner.jpg

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【小説】麗しき友情 ~或いはハタ迷惑なデバガメ達~

※注意
 この小説は『真夏の日の夢』の外伝的内容となっており、また同作のネタバレを多分に含んでおります。
 未読の方は『真夏の日の夢』からお読み下さい。







 ――ドリドリドリドリドリ。
 のどかな田園風景の中。夏の暑い日差しの中、そんな音が木霊していた。
 音の主は丸い耳と大きな尻尾を持った青年。手にしたドリルで地面を掘っていた。
 ガツ、と。
 ドリルを持っていた手に何かの手応えが返って、青年はその場からドリルを除ける。
 除き込んだ穴の中にあるのは、
「懐中時計、か」
 感情の薄い声で呟くと丁寧に発掘品を取り出し、土を払ってバッグへ。
 若干地点をずらし発掘を再開しようとスイッチを入れる。しかし嫌な音を立ててドリルの回転が止まった。
 見るとドリルの刃がこぼれ、使い物にならなくなっている。
「……30本目」
 呟いた数はここ、ローズガーデンを発掘するために彼が使ってきたドリルの数だ。
 そして――
「これだけ掘っておきながら、2個しか集まらないとは」
 バッグの中を漁り、出てきたのは銀色の缶詰。『ココアパウダー』とラベルの貼られたそれを溜め息混じりに手に取った。
「これは本当に、カバリア氏の陰謀を疑ってかかるべき――」
 TRRRR…… TRRRR……
 眉根を詰めて唸る青年の言葉を、携帯電話の着信音が遮った。
 懐から電話を取り出す。
「レニィ……?」
 液晶に表示された名前に僅かに顔を顰(ひそ)め、通話ボタンをプッシュ。
「はい、セウルス」
「あ、もしもしセウルス? あたしー」
 あたしじゃ誰だか分からないだろうとか、新手のあたしあたし詐欺か、というツッコミは口にはしなかった。
「どうした?」
 セウルスの声にレニィはえっと、と前置きして、
「今、フェン君とデートしてたんだけど」
「のろけ話なら切るぞ」
 即座に通話終了ボタンにかけた指を、レニィの焦った声が呼び止めた。
「ちょっと待って! 違うのそうじゃなくて!」
「なら、早く用件に移りたまえ」
 セウルスの言葉に、レニィはうぅ、相変わらず厳しいよぉ、などと情けない声で言っている。やがて気を取り直したのかいつも通りの声で、
「でね、今フェン君と一緒にメガロポリスに居るんだけど。そこで……見ちゃったの」
「何をだ?」
「エイル君とミーアが一緒に居るところ」
「ミーア……?」
 友人の口から聞こえた懐かしい名前に、帰って来てたのか、と呟く。
「それで、それを私に聞かせてどうしようというんだ?」
 レニィは何が楽しいのか含み笑いを隠しもせず、
「ほら、友達としちゃ二人の関係が気になる訳じゃない。だからこっそり後をつけて確かめてみようって、そのお誘い」
「……見上げた友情だな」
 呆れたようなセウルスの言葉。レニィは拗ねたように、
「じゃあセウルスは来ないの?」
 質問に、セウルスは即座に答えた。

「待っていろ、5秒で向かう」
 通話を終了すると同時。セウルスは神速の指さばきで短縮ダイヤルから転送サービスを呼び出した。
「……ミーア、か」
 もう会わないと諦めかけていた、古い知り合いの名を呟きながら。

     ◇     ◆     ◇

「……うっわー。本当に5秒で来たよ」
 驚いたような呆れたようなレニィの言葉。
 メガロポリスに訪れたセウルスを待っていたのは兎の耳とボクシンググローブをつけた少女レニィと、翼を模した飾りを頭に載せた少年、レニィの彼氏でもあるフェン。
 そして――
「ナエ?」
 尖った耳に二房のふさふさの尻尾を持つ少女、ナエだった。
「君も来ているとは。少々意外だな」
「そうかしら?」
「あのね、ナエはエ――むぐっ!?」
 何が楽しいのか、含み笑顔で何かを言いかけたレニィの口を、ナエが神速とも呼べる速さで封じた。
「むぐもごー!?」
「あはは。何でもないから」
「……?」
 おかしな動きをする二人に首を傾げ、しかしセウルスはそれ以上追求しなかった。
 三人と同じ建物の陰に身を隠を潜め、声を落として傍らへと訊ねる。
「……それで、二人はどこに?」
 セウルスの言葉に、フェンが指を向けた。
 向けられた先に居るのは獅子の耳と尾をつけた少年、エイル。そして、彼と向き合っている猫耳の少女は――
「ミーア……」
「ここ半年、一度も見てなかったから……今日、久々にこっちに戻ってきたんじゃないかな」
 呟いたセウルスに、レニィが言葉を繋げた。
 向こうでは獅子の少年が猫の少女に手を引かれ、どこかへ連れて行かれようとしている。今いる場所からは会話までは聞き取れないが。
「どこかへ移動するようだな」
「じゃあ、あたし達も移動しよっか」
 さらりと告げたレニィの言葉にセウルスはじと目を向けた。
「覗きに続いてストーキングとは。ほとほと悪趣味だな、君は」
「何言ってるの。ミーアとエイル君の恋路の行方を暖かく見守ってあげるんじゃない。これも友情だよ」
「……はた迷惑な友情もあったものだ」
 呆れたように溜め息をひとつ。レニィはそんなセウルスへ頬を膨らませた。
「何よ、そんな事言う人間は置いていくからね?」
「わかった、はた迷惑はお互い様だな」
 そう言って肩をすくめてみせる。レニィは一転笑顔になって拳を空に突き上げた。
「じゃあ、作戦開始ー!」
「おー」「おー」「おー」
 四人の声が青空に吸い込まれ。
 一行は二人の後を追い、移動を開始した。

 PT名:麗しき友情

     ◇     ◆     ◇

「おー。ここは涼しいねー」
 スワンプダンジョン半ば。
 湿ってはいるが涼しい空気に、レニィは眼を細めた。しかしその顔はすぐにしかめっ面になり、
「けど、こんな所をデートコースに選ぶなんて。エイル君も乙女心が分かってないねー」
「連れてきたのはミーアの方だったが」
 やれやれ、と首を振るレミィにセウルスが冷静に指摘する。
「そもそもの疑問だが、果たしてこれはデートなのか?」
 頭に疑問符つきで訊ねたセウルスに、レミィはあったり前でしょー、と人差し指を立てた。もう片方の手を腰に当て、セウルスに詰め寄る。
「久しぶりに再会した男女が二人きりで。ふ・た・り・き・り・で! どこかに出かけるなんて、これがデートじゃなくて何だって言うのよ!」
「……分かったからもう少し離れてくれ」
 先ほどから微妙にチクチクと刺さるフェンの視線を気にしながらセウルスはレニィを遠ざけた。獅子の少年と猫の少女の方へ視線を移す。
 向こうの二人は向き合い時計を操作した後、
「あ、別れた……もー、折角の再会なんだから二人の時間を大事にしなさいってばー!」
 レニィの憤慨も空しく、互いに得物を掲げあい、別の方向へと散開した。
「……どうする?」
「二手に別れよっか。あたしとフェンがミーアを追うから、セウルスとナエはエイル君をお願い」
「了解した」「わかったわ」
 頷き、四人は二手に分かれて追跡を再開する。

     ◇     ◆     ◇

「ィィィィィーっ!」
 長い悲鳴を残して、致命弾を受けた花虫が動かなくなる。
 獅子の少年は辺りを確認し、一息と共に緊張を解いた。
「なかなかやるものだな」
「そうね」
 そんな獅子の少年を見守る影が二つ。
 セウルスとナエの二人は少し離れた場所に隠れ、奮闘する少年の姿を見守っていた。
 少年から目を離さないナエを横目で見ながら、セウルスは声をかけた。
「先程から、気になっていたのだが……君はどうして私達に同行している?」
「……どうして?」
 訊ね返す言葉は、どうしてそんな事を訊くのか、という意味だ。セウルスはどう答えたものか、と少し考え、
「噂好きのレニィならともかく、君のような人間が他人の恋路をつけ回す悪趣味を持ってるとも思えないのでね」
「それは……」
 答えに窮したのか、泳いだナエの視線が獅子の少年の方へと向けられた。その様子に何かを閃いたセウルスが自分の予測を口にする。
「なるほど、目的はエイルか。好きになった相手が自分以外の異性と付き合っているとなれば、気にもなる、と」
「なっ!?」
 なぜ分かったの、と驚いた顔を真っ赤にしてセウルスを振り返るナエ。
「特に根拠があった訳ではないのだが。ふむ、なるほど……」
 セウルスの言葉に、ナエは顔を真っ赤にしたまま拗ねたように、
「笑いたければ笑いなさいよ。似合わないって」
「いや、そんな事は無い。恋心は誰に対しても平等だと考えているし――」
 瞬間、普段ほとんど笑う事のないセウルスがほんの僅かに微笑んだ。
「――私の理由も、似たようなものでね」
 え、と疑問符を浮かべたナエが、すぐに何かを悟り。瞬間、その目が先刻以上の驚きに見開かれた。
「もしかして……あなた、ミーアを?」
 おずおず、といった調子で訊ねる。しかし、
「さて、ね。想像にお任せしよう」
 飄々と答えるセウルス。ナエはずるいだのここまで言ったんならきちんと最後まで言いなさいよだのとぶつぶつ文句を言っている。
 セウルスは文句の数々に聞いていないふりをしつつ、獅子の少年の方を伺った。
 視線の先では時計を見た少年が、元来た道を引き返している。
「どうやら移動するようだな。……ナエ、早くしないと見失ってしまうが」
 そう言ったセウルスの言葉にナエはうー、と唸り声をひとつ。二人は少年の後を追って湿気に満ちた沼地を歩いていく。

「お帰りー」
 ひらひらと手を振り、セウルスとナエの二人を出迎えたのはレニィだ。隣にはフェンが、茂みの向こうへと視線を向けている。
 今、この二人と出会ったという事は、
「ミーアもこの先に?」
 セウルスの言葉にレニィは頷き、フェンと同じ方向に視線を向けた。
 二人に倣ってそちらを見れば、猫の少女が蹴りの一撃で次々とモンスターを屠っている。
「鮮やかなものだな」
 ミーアの活躍をセウルスが一言で賞す。ナエが何か言いたそうにセウルスを見たが、セウルスの表情は変わらない。
 と、セウルスの肩を誰かが叩いた。セウルスは少女の方を向いたまま、
「どうした、ナエ」
「……何が?」
 怪訝そうな声にセウルスは振り向き、ナエと二人で顔を見合わせ、首を傾げる。
「ひゃんっ!」
 妙に艶っぽいレニィの声が二人の耳に届いた。
「もう、フェン君ったら。二人が見てるのにこんな事……」
「何の事だい?」
 満更でもなさそうなレニィだったが、フェンが首を振って否定するのを見て眉を顰(しか)めた。
「じゃあ誰が……?」
 四人の間に沈黙が降りる。そしてほぼ同時に、ゆっくりと後ろを振り返った。
「シュルルルルル……」
 振り向いた先、彼らの視界に大写しになったのはモンスターの一群。
 セウルスの近くにいたジャイアントカタツムリは複眼をセウルスの肩に乗せ、隣の花虫が蔓をレニィの尻に伸ばしている。
 暫しの間、時が停止し――
「モンスター!」
 ナエが小声で叫ぶのと同時、四人はそれぞれモンスターから飛びのいた。
 体勢を立て直しつつ、セウルスは彼我の戦力を確認する。
 相手は花虫が二匹、パープルワーム、ジャイアントカタツムリが一匹ずつの計四匹。対するこちらは四人という事は、
「一人一匹で丁度いいわね」
 ナイフサックからナイフを取り出し、ナエが正面のモンスターを見据えた。
「さあかかって来なさい! 乙女の純情を踏みにじった報い……受けさせてあげる!」
 愛用のグローブの紐を締め、やる気満々のレニィにセウルスはツッコミを入れようかと迷ったが、蔓を振り回し襲ってくる花虫にそれは中断された。
「……全く、我慢の足りない連中だ」
 セウルスは自分に向け振りぬかれた蔓を溜め息交じりで受け止めた。同時に懐から一枚のカードを取り出し、花虫へ向けて投擲する。
「ギィッ!」
 怯んだ花虫の懐に接近する。同時にちらりと他の三人の様子を伺った。

 ジャイアントカタツムリが溶解液を放つ。粘性を持ち飛来するそれをナエはサイドステップで回避した。同時に疾走を開始する。
 姿勢は低く、滑るように。相手の死角から高速で接近する走法だ。
 一呼吸の間もなく相手の側面に回りこむ。ジャイアントカタツムリが反応を起こす前に、ナエは手にした短剣を急所へと突き立てていた。
「ァァァー……」
 一撃でジャイアントカタツムリは沈黙し、その場に崩れた。

「――――」
 通常の言語ではあり得ない発音の羅列が響く。
 身体を揺らしながら自分へと迫るパープルワームを前に、しかしフェンの表情に焦りや怯えの色は無かった。
 パープルワームがその長い身体でフェンの周りをぐるりと囲み、絞め殺そうと引き絞る。上半身を拘束されたフェンの身体が軋む音が響くが、彼の詠唱は途切れない。
「――――」
 詠唱が終わった。後は名前を唱えれば、込められた威が放たれる。
「シャワーオブアロー!」
 そうした。
 フェンの頭上に幾本もの光の矢が連続して出現し、自らを締め付けるパープルワームに降り注ぐ。
 光の矢に串刺しにされ、絶命したパープルワームから力が抜ける。フェンは拘束を解いてパープルワームから離れると、大きく一つ伸びをした。

「よっ、と」
 鞭のようにしなり、高速で襲い来る花虫の蔓をレニィは軽いステップで回避する。
「わっ」
 着地した顔面を狙って放たれた蔓をしゃがんで避ける。
「もう、信じらんない!」
 頬を膨らませ、体勢を立て直したレニィは跳ねるようなフットワークで花虫との距離を詰めた。
 蔓をスウェーで回避して辿り着いたのは至近距離、互いの息のかかる場所だ。レニィは怒りに燃える瞳で花虫を見据え、
「人のお尻を触るだけでもあたし的に重罪なのに……」
 充分なスピードを乗せたレニィの左ジャブが花虫に放たれる。
 花虫は蔓を束ねそれをガードするが、それはレニィにとっては計算の内だった。
「顔まで傷つけようとするなんて……」
 がら空きになった左側を、レニィのフック気味に放たれた右ストレートが穿った。鈍い音が響き、花虫はよろめくように後ろに下がる。
「あんたなんて、」
 広がった間合いを詰めながら、レニィの体が一瞬沈み込む。
「飛んでっちゃえー!」
 全身のバネを使ったアッパーカットが花虫に炸裂する。レニィ二人分はあろうかという身体が宙に浮き、その衝撃は花虫の意識を彼方へと飛ばしていた。

「攻撃力の違いは否めん、か」
 既に決着のついている三人と自分とを比べ、ぼやくように言った。手にした武器を握り締め、低い姿勢で振りかぶる。
「しかし……私には私の戦い方がある」
 滅茶苦茶に振り回される蔓が体に切り傷を生むが、かすり傷とセウルスは気にしない。そのまま渾身の力を込めた一撃を花虫に向けて振り抜いた。
「――ッ!」
 腰下から斜め上に向けて放たれたスイングは花虫を直撃し、その身を吹き飛ばす。宙を滑空し、着地しても尚も転がり続ける花虫。
 壁にぶつかり勢いが止まった時、既に花虫は息絶えていた。
「お疲れ様ー」
 一息ついたセウルスにレニィが労いの言葉をかける。
「まったく、いくらモンスターでもTPOってものを考えて欲しいよねー。あたし達は今忙しいっていうのに」
「それは無理な相談というもの――」
「きゃっ!?」
 だろう、と続けようとしたセウルスの耳に、知人の悲鳴が飛び込んだ。四人は一斉に声のした方へ視線を向ける。
「あれは……」
 視線の先。猫の少女の周りを取り囲むようにしてモンスターが四匹出現していた。
「先ほど私達が倒したモンスター、だろうな」
「どうして、よりによってミーアの所に……!」
 少女がパープルワームに向け、蹴りを一閃。しかしパープルワームは怯んだだけで、じわりと少女との距離を詰めた。
「どうしよう……」
 焦ったようなレニィの声。少女を助けに行くには四人と少女の距離は離れすぎていた。
 これから繰り広げられる惨劇を想像して皆が固唾を飲んだ、その時。
「おおおおおっ!」
 獣のような咆哮。声のした方へ向けたセウルスの視線の先、獅子の少年が銃を放ち、同時に走りだしていた。
 続く通常射撃をジャイアントカタツムリに命中させ、少年は少女の元へ駆けつける。
「落ちろぉっ!」
 叫ぶと同時に放たれた四発の銃弾が、二人を取り囲むモンスター達を撃ち抜く。
 少年が銃を下ろす。辺りにあるのはモンスターの骸たち。
「……凄い」
 ナエが放心したように呟く。
「あの数を一瞬で倒してのけるとは――」
 言いかけたセウルスの言葉が止まった。
 先ほどの攻撃で倒しきれなかった花虫が不意に動き、蔓を少年に向けて振り抜いた。
「危ない――」
 セウルスの言葉は届かない。咄嗟に振り向いた少年の左腕を蔓が引き裂き、赤い華が咲いた。
「しつこいんだよっ!」
 少年が吼え、片手でポイントされた銃から気を纏った弾丸が放たれる。銃を持った手が跳ね飛ばされるが、弾丸は花虫を貫通した。
 少年が硝煙たなびく銃を下ろし、辺りは静寂に包まれる。
「終わった、かな……?」
「そのようだ」
 セウルスの言葉に、レニィとフェン、ナエの三人が同時に安堵の息を吐いた。
「良かったぁ……一時はどうなる事かと思ったよ」
 胸を撫で下ろしたレニィの言葉に、隣のフェンが頷く。
「さっきのエイル君、格好よかったねー。群がる敵を次々倒してさ、お姫様を守る騎士みたい」
 レニィの言葉にフェンは神妙な顔で頷き、やや考えてからちょいちょいとレニィをつつく。
「ん、どうしたの?」
「……格好いいって、僕よりも?」
 フェンの言葉にレニィは一瞬驚いた顔をして、すぐにその顔をだらしなく緩めた。
「妬いちゃった? だいじょーぶ、フェン君が一番格好いいよ」
「レニィ……」
「……」
 いちゃつき始めた二人に付き合っていられない、とセウルスは視線を向こうへと移す。
 見れば、猫の少女が獅子の少年の腕を取り、傷口に包帯を巻いているところだった。
「……いい感じだね、あの二人」
 ナエの言葉に頷く。
 視線の向こう、どこか他人の入り込めないような空気を醸す二人を、セウルスとナエはやや複雑そうに見守っていた。

     ◇     ◆     ◇

「お待たせー」
 イベントガーデン、セレモニア。
 物陰に隠れ、猫の少女と何やら話している獅子の少年を見守るセウルスとナエ。そこにカップを持ったレニィとフェンが戻ってきた。
「どう、ホシの様子は?」
「特に変わりは無いが。……ホシって何だ」
 別にー、と嘯(うそぶ)いて二人はセウルスとナエにカップを手渡した。そのまま、横の芝生に腰を下ろす。
 向こうでは芝生に寝転がった猫の少女とカップを手にした獅子の少年が何やら話していた。
「うーん、何だか微妙だなー」
「……気になっていたのだが。どうして君はあの二人が付き合う事にこだわっているんだ?」
 セウルスの問いに、レニィは向こうへと視線を向けたまま、
「こだわってるって言うか。……どー見てもラブラブなのに、お互い鈍感すぎてくっつく雰囲気さえ見せないのがちょっと癪なだけ」
「ラブラブ……かね?」
 セウルスの言葉にレニィはこれだから男って……などと言いながら溜め息をひとつ。
「ラブラブだと思うよ? 今回だって、久々にこっちに来て最初に会ってるのがエイル君だしさ」
「……そういうものか」
 どこか釈然としないままセウルスは頷き、手にしたカップを傾ける。
 ――そして、曰く言いがたい表情のまま硬直した。
「……レニィ。買ってきて貰って悪いが、一体これは何だ?」
 自分のはまともな飲み物なのか、見ればレニィは手にしたカップの中身を普通に飲んでいる。
「何って……」
 半眼でのセウルスの問いに、暢気にレニィが指折り数えて手渡した液体の名前を挙げていった。
「ポックリスウェットに毒だけ茶、鉄っちゃんに……あと、マスターペッパー」
 レニィの言葉にナエが引きつった顔で自分の持っているカップを見た。
「何でそんなにゲテモノメニューが豊富なんだ……というよりレニィ、この選択は絶対にわざとだろう」
 額を押さえながら言ったセウルスに、レニィは頬を膨らませた。
「セウルスってばひどーい。あたしは普通に選んだだけなのに。……半分は」
「半分確信犯じゃないか」
 セウルスが半眼で睨むと、レニィは気まずそうに顔をそらした。やれやれ、と首を振り、
「だいたい君は一般常識が――」
 説教モードに入りかけたセウルスの言葉が止まる。
 目の前のレニィが腹をかかえて蹲(うずくま)り、ついにこらえきれない、といった様子で笑いはじめたからだ。
「どうした、熱気で頭をやられたか?」
「そうじゃなくて……懐かしいな、と思って」
 冷徹なセウルスのツッコミを否定し、レニィが言った。
「ほら、前は毎日のようにここに集まって、今みたいに話したりバカな事してたから」
「……そうだったな」
 力の抜けた表情でセウルスが言った。そのまま、暫し過去に想いを馳せる。
「色んなことがあったよね。あたしがフェン君やセウルスに最初に会ったのもここだったし」
 沈黙の中、最初に口を開いたのはレニィだった。
「ミーアと初めて会ったのもこの場所だったっけ」
 独り言のようなレニィの言葉にセウルスが頷き、
「あの時は……レニィが初対面の相手にいきなり『お嬢さん、寄ってかないー? 粒揃いの美男子が揃ってるよー』とか言いだしてな」
「そんな事言ったっけ?」
「言ったとも。あの時は驚くやら呆れるやら……」
 それで引かずに輪に加わったミーアも大人物と言おうか何と言おうか、と小声で付け足す。
「それで暫くして、ミーアが『面白いコ拾って来た』って言ってエイル君を連れて来て、ナエと知り合って……」
 郷愁に似た感情を浮かべ、レニィが言った。
「あの頃は楽しかったな……って、あはは。何だかセンチメンタルだ、あたし」
 しんみりした空気を吹き飛ばすようにレニィが笑う。けれどその笑みはどこか力無くて。
「今が楽しくないわけじゃないんだけど、昔は良かったな、って最近思うんだ」
 レニィはその場にごろりと寝転がり、届かない太陽に向けて手を伸ばした。
 まるで、そこに大切なモノがあるかのように。
「あーあ、昔に戻れたらいいのに」
「……戻るのは無理かもしれないけれど」
 そんなレニィを励ますように、ナエが言葉を紡ぐ。
「この場所ですごした日々を忘れずに……あの日々があったから今の私があるんだ、って思えれば。きっとあの時よりもっと楽しい毎日が送れるんじゃないかな」
 言ってから自分の台詞に恥ずかしくなったのか、顔を赤くしてそっぽを向くナエ。
 レニィはそんなナエの様子にくすり、と微笑んで、
「そっか。……そうだよね」
 えい、とナエを軽く小突いた。振り返ったナエもレニィの笑みにつられて微笑む。

 向こうでは猫の少女が綺麗な笑顔を獅子の少年に向けていたが、それに気づいた者は無かった。

     ◇     ◆     ◇

「――、――――」
 紅に染まる世界の中、獅子の少年と猫の少女が話している。
「結局進展は無し、か。いい感じだと思ったんだけどなー」
 雑踏に隠れるように二人の様子を伺っていたレニィが退屈そうに言った。
「そう簡単に進展する仲でも無いのだろう」
「でもさ、これを逃したら次はいつになるか分からないじゃない? だったら、今回を逃したらもう無理じゃないかな」
 レニィの言葉に、セウルスは傍らのナエの様子を伺う。彼女はホッとしたような腑に落ちないような複雑な表情で向こうの様子を見守っていた。
「あー……」
 落胆したレニィの声。向こうでは獅子の少年と別れた猫の少女が雑踏の中に紛れようとしている。
「根性見せろエイルー!」
 と、唐突に少女が振り返った。
 少年へと近づいた少女が少年に何やら言い、少年が少女の方に屈んで――
「ぁ――」「わぁ……」「おおー」「……」
 四人の見守る中、少年の顔をホールドした少女が少年にキスをしていた。
 たっぷり三秒ほど後、少女は少年を開放する。
 慌てた様子の少年も微笑む少女も、夕日のせいだけでなく顔が真っ赤になっていた。
 そのまま二言三言、言葉を交わし……優しい顔をした少年が少女の頭を撫でた。
 暫く撫でられていた猫の少女が一歩離れ、踵を返し雑踏へと駆けていく。
「浮気しちゃダメだからねー!」
 振り返り、獅子の少年へと投げかけた言葉がこちらまで聞こえてきた。
 拗ねた顔で何やら呟いたらしい少年は暫くその場に立ち止まっていたが、やがてどこか晴れやかな顔で帰っていく。
「帰るようだが……どうする、追うのか?」
 問いかけつつ振り向くと、何やらレニィの様子がおかしかった。
 彼女は俯き気味にふるふる、と無言で首を振り、
「……」
 顔を赤くして、フェンの服の袖をくいくいと引っ張った。
 それで通じたのか、フェンは神妙な顔で一つ頷くと、レニィと連れ添って何処かへ歩いていく。
「二人の熱気に当てられたのか。……一体何処へ行く気やら」
 見えなくなった二人にそんな言葉を投げかけ、セウルスは傍らへと振り向く。
「――ナエ?」
 ナエの姿を見たセウルスは思わず呼びかけずにはいられなかった。何故なら、
「え?」
 先ほどまで猫の少女と獅子の少年が居た場所を眺め。ナエがその両目から光る雫を流していたからだ。
 セウルスの視線に気づいたナエは慌てて涙の筋を拭い、気にしないで、と笑いかけた。
「ゴメンなさい、変なところ見せてしまって」
「いや……」
 首を振り、セウルスはナエに思いを馳せた。何せ目の前で失恋したのだ、落ち込むな、という方が無理な相談だろう。
 同時に、これからどうするか考える。
 今この場所に居るのは失恋したばかりの二人。自分にとって今何が欲しくて、相手は何が欲しいのだろうか、と考えれば答えはすぐに出た。
 セウルスはナエへ手を差し出し、
「さて、我々も行こうか」
「行くって……どこに?」
「そうだな。バーか居酒屋か……ビアホールという手もあるな。取り敢えず今の私達に必要なのは慰める相手と、美味い酒だと思うのだが」
 どうかな、と視線で問うセウルスにナエは半目で、
「……それってナンパのつもり?」
「失礼な人だな君は。私も失恋したばかりだと言うのに」
 大仰な仕草で肩を落としてみせる。
「とてもそうは見えないけれど」
「そう見せていないだけかも知れないな」
 言って、肩をすくめた。自分でも芝居がかっているとは思うが、どうやら効果はあったらしい。
 いくらか気が紛れたのか、ようやくナエの顔に自然な明るさが浮かんだ。セウルスの手を取り立ち上がると彼の肩を叩き、
「じゃあ、その辺の事も含めて今日はセウルスに洗いざらい喋ってもらいましょうか」
「……せめて黙秘権は行使させてくれ」
 溜め息混じりに言って、先を行くナエと共に雑踏の中に消えるセウルス。



 ――真夏の日の、夢のような一日は。
   どうやら、もう少しだけ続くらしい――











 読了下さりありがとうございました。
 前作『真昼の日の夢』で果たせなかった狸が主役の作品……と思い書いてみたのですが、いかがでしたでしょうか?

 この作品、実は前作の執筆中にアイディアが浮かび、こちらと整合させる為に前作中の一部シーンを書き直す、なんて事をしておりました。
 この人達に関しては愛着があるので、機会があればまた別の作品で描きたいなぁ、と思いつつ。

 それでは、また次の作品でお会いしましょう。
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  1. 2006/07/12(水) 22:23:07|
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