ゴー・アヘッド!

へたれ文章家、ウェアホースとその周りの人々が織り成す、ドタバタ冒険愛憎活劇(嘘) banner.jpg

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【小説】真夏の日の夢

「暑い……」
 何か恨みでもあるんじゃないか、と邪推したくなる強い日差しの中。俺は思わず一人呟いていた。
 地域による差こそあれ、夏は暑いものというのは全世界共通の認識だろう。今歩いているこの町、メガロポリスも例外じゃない。
 明らかに冬用の赤い毛糸の帽子は熱を蓄え、頭の中を蒸し煮にしてくれる。鉄兜を着けてる人間よりマシだとは思いたいが、そんなのは小さな差かもしれない。
(……マズいな)
 熱気にやられてオーバーヒート寸前の頭で考える。このままだといずれ倒れてしまうだろう、と。
 今日は早めに切り上げて、陽が傾くまで日陰で時間を潰そう。
(もしくは、思い切ってスノーヒルまで行って避暑と洒落込むか、だ)
 白銀の雪景色を想像し、少しだけ涼しくなったような気がした俺は所狭しと店を広げている露店に目を移した。
 路上には色とりどりの商品が並べられ、売り手はどうにか自分の商品を手にとってもらおうと躍起になっている。
(この暑い中、逞しい事で)
 特に欲しいものがある訳ではない。それでも、何か掘り出し物が無いかと探してしまうのは染み付いた習性というものだろうか。
「どっかに最高合成のリズムイヤリングがお手頃価格で転がってないかな、と」
 冗談交じりにそんな事を呟き露天を見回す。もちろん、そんな掘り出し物が都合よく見つかるはずもない。
 一通り露天を冷やかして、この後どうしようかと考えながら携帯端末を開いた。
(今居るのは……4人、か)
 点灯しているフレンドリストの名前を眺めて、誘える相手が居ないか考える。
(セウルスは多分、ローズガーデンだな。フェンは……デート中だと厄介だから取りあえず放置。後は……)
 順番にリストを眺めていた視線が、3人目で止まった。
「え……」
 思わず声が漏れる。その位、緑色に点灯していた人物の名は予想外だった。
「アイツ、戻って――」
 その時。携帯端末を持って俯いている俺の前を、よく見知った影が通り過ぎたような気がした。
 反射的に顔を上げ、影へと呼びかける。
「ミーア!」
 呼びかけに、影は驚いたように立ち止まった。
 強い日差しに輝く金髪に、猫を模した耳。それらは長い間会っていない友人に共通するもの。
 影が振り返る。予想通りの顔がこちらを見て、目を真ん丸くしていた。
「エイル、君……?」
 疑問符つきの言葉に微苦笑しながら、言葉を返していた。
「お帰り、ミーア」

「た、ただいま」
 一拍遅れて、ミーアが照れたように言った。
 どもった台詞も、その仕草も。あまりにもいつもの彼女のイメージに似つかわしくなくて、俺は思わず吹き出していた。
「もう、何で笑うのよ」
 リアクションが気に食わないのか、ミーアは怒ったように頬を膨らませる。
「相変わらず失礼な人ね、君は」
「……相変わらずとはご挨拶だな」
 眉を寄せてミーアを睨むと、彼女は表情を緩めひらひらと手を振った。
「まあまあ、そんな事はいいから」
 彼女は笑って俺の手を取った。とても自然な動作。
「ここに居るって事は、この後どうせ暇でしょ? こうして会えたんだし一緒にどっか行かない?」
「……待て」
 あまりに自然なので思わず流されそうになる。が、ここは一応ツッコんでおくところだ。
 彼女の言葉は疑問形ではあるが彼女は俺の返事なんて聞くつもりもないらしい。ギュッと握られた手はちょっとやそっとじゃ振り解けそうになかった。
 勝手に何処かへ歩いて行くミーアに引きずられながら、
「暇じゃなかったらどうするつもりだ。拉致は今のご時世、色々と問題だぞ」
「じゃあ、何かご予定でも?」
 じと目で睨む俺に対し、そう言って悪戯っぽく微笑む彼女。僅かに沈黙し、俺は自分の負けを認めた。
「……ゴメンナサイ暇です」
「宜しい。じゃあレッツゴー」
 久々に会った彼女は、以前とちっとも変わっていない。
 それが何だか嬉しくて。引かれるまま彼女の後をついていく。

     ◇     ◆     ◇

「……で、何でこんな所に」
 俺の言葉に、嬉しそうに辺りを見回していたミーアが振り返った。
 じめじめと湿った空間。メガロポリスからスワンプ入り口、カルバイガルを経由して二人はスワンプダンジョンの半ばへと訪れていた。
「いいじゃない。前はよく遊びに来てたでしょ?」
 そう言われ、記憶をたぐり寄せてみる。が、
「有無を言わさず連れてこられて、瀕死になった記憶と全死になった記憶しか無いんだが……」
 当時の記憶が蘇り、思わず漏れた恨みがましい言葉を彼女は笑って聞き流す。
「男のコがそんな細かい事、いちいち気にしない」
「気にするだろっ。一時期トラウマになったんだからな」
 憮然とした表情でツッコんだ俺をミーアはまあまあ、と両手を上げてたしなめた。
「一時期って事は、もう大丈夫なんでしょ? それとも……やっぱり怖い?」
「冗談」
 心配そうにこちらを伺うミーアに、面白くもなさそうに不敵に笑い返してやった。彼女はそんな俺の顔を驚いたように見て、
「……その様子だと、一人でも大丈夫そうだね」
 同じように不敵に笑った。
「ねえ。折角だし、ゲームしよっか」
「ゲーム?」
「そ。今から1時間で多くモンスターを倒した方が勝ち」
「賞品は?」
「今日この後、負けた方のおごりってのでどう?」
「乗った」
 俺の言葉に彼女が頷いた。互いに時計を合わせると、一時間後にアラームをセットする。
「それじゃ……よーい」
 秒針が時を刻み、
「スタート!」
 分が切り替わると同時に、俺達はモンスターを求めてバラバラの方向に散開した。

     ◇     ◆     ◇

「ィィィィィーっ!」
 長い悲鳴を残して、致命弾を受けた花虫が動かなくなる。
 周囲に他のモンスターが居ない事を確認して、緊張させていた意識と身体を少しだけ緩めた。
「これで……102体目、か」
 結構いいペースで倒していると思うが、向こうはどうだろう。頭の片隅でそんな事を考えながら腕時計に目をやる。残り時間は5分ほど。
(そろそろ戻るか……)
 思ったところで、俺は自分達の失敗に気付いた。
「あー、しまった。待ち合わせ場所、決めておくんだった」
 お互い慣れた場所だし迷う事は無いと思うが、万が一という事もある。
(久々に来たおかげで道を忘れてないとも限らないし)
「……探しておくか、一応」
 よし、と頷いてミーアを探しに歩きはじめた。

「お、いたいた」
 元々そこまで広くはない場所ということもあって、ミーアはすぐに見つかった。遠目に見える彼女は襲いかかるモンスターに鋭い蹴りを食らわせ、次々と沈めていく。
「鮮やかなもんだ」
 懐かしさもあってか歩調は知らぬ間に緩み、戦う彼女の姿に見とれていた。
(昔はあの後ろで震えていたっけ)
 彼女の方が俺よりもずっと戦い慣れしていた頃。
 毎日のようにこの場所に連れて来られては、歯の立たないモンスターから逃げるように彼女の後ろに隠れていた。
(今は……どうだろう)
 あの横で並んで戦えるくらいには成長したのだろうか。
「きゃっ!?」
 聞こえた悲鳴が、回想に沈んでいた俺の意識を急速に呼び戻した。
 見ると、彼女の至近距離に4匹のモンスターが新たに出現していた。花虫が2匹に、パープルワーム、ジャイアントカタツムリがそれぞれ1匹ずつ。
(横沸き……しかも同時に!?)
 驚きの声を上げたミーアは反射的に一番近いパープルワームに蹴りを一閃。しかし怯みはしたものの倒せはしない。
 返礼とでも言うように4匹が一斉にミーアへと襲いかかる。
 1対1ならまだしも、こう数が多くては分が悪すぎる。攻撃を避けるにしても限度があるだろう。
 反撃の気力すら萎えたのか。怯えた様子で目の前の光景から逃れるよう、目を閉じるミーアの姿が見えて。
 ――俺の理性のヒューズが焼け飛んだ。
「おおおおおっ!」
 獣のような咆哮を上げながら、花虫へと銃口を向ける。トリガーを引くと、打ち出されるのは高威力の弾丸。
 気力を込めた一撃が花虫に命中するのを見届ける間もなく俺は駆け出し、走りながら今度はジャイアントカタツムリに狙いを定めた。
 発射、そして再装填。
 ジャイアントカタツムリに銃弾が命中したのと同時、突然の闖入者を迎撃しようと残る2匹もこちらへと視線を向ける。
 その時には既に、俺はミーアの元へと駆けつけていた。
「落ちろぉっ!」
 周囲を取り囲む4匹に連続して発砲。通常銃弾に比べ数倍の威力の弾丸に撃ち抜かれたモンスター達は痙攣し、やがて動かなくなる。
 俺は荒い息をおさめつつ、銃を降ろし――
「キィィィーっ!」
 油断した俺に対し、倒し損ねた花虫が棘のついた蔓を振るう。
「っ――!」
 振り返り攻撃を避けようとしたが間に合わない。次の瞬間には左腕に焼けたような感覚が走っていた。反射的に目をやると、切り裂かれた二の腕から血が溢れている。
 ――けど。こんな怪我、今はどうでもいい。
「……っの!」
 振り向き様、片手で銃を構えると花虫に狙いを定めた。
「しつこいんだよっ!」
 発射。
 片手で反動を殺しきるのは無理があったのか、弾丸が発射された反動で銃ごと腕が跳ね飛ばされる。
 若干狙いの逸れた弾丸はしかし、最後の1匹を貫通した。花虫はその場に崩れ、やがて動かなくなる。
 ようやく、辺りに静寂が訪れた。
「……ふぅ」
 長い溜め息をついて、今度こそ俺は銃を降ろした。
「おーい、ミーア?」
 振り返り、先ほどからずっと、硬直したように動かないミーアに呼びかける。
 ぎゅっと目を瞑ったままのミーアは、俺の呼びかけにビクっと震えた。そんな彼女を安心させるように柔らかい声で、
「大丈夫だぞ、もう終わったから」
 俺の言葉に、ミーアがこわごわ目を開ける。
 自分の周りに倒れるモンスター達にホッとしたように息をついて。
 視線が俺の方に向いた瞬間、息を呑んだ。
「エイル君……その傷」
「ん。ちょっとドジった」
 視線を追った先に見えた左腕の裂傷を見て、何でもない事のように言う。
 ……自覚した瞬間痛みが襲ってくる辺り、結構現金なものだと思うが。
「私を庇って……?」
「そんな大層なモンじゃないって」
 頭に血が上って無我夢中だっただけで、庇おうとか立派な心がけがあった訳じゃない。
 ぶっきらぼうに言った俺の何がおかしいのか、ミーアは微笑を浮かべた。
 俺の前に立ち、
「痛たたたた!?」
 おもむろに左腕を掴むと少々乱暴に持ち上げた。
「……もう、やせ我慢も大概にしなさいってば。ほら座って座って」
 呆れたように言って、そのまま傷の手当てを始める。
 俺はその場に座り込み、大人しくミーアの手当てを受けている。
「エイル君」
 消毒が終わり、包帯を巻きながらためらいがちに呼びかける声。
「ん?」
 問い返す声にミーアは少し迷い、小さな声で呟いた。
「……ありがと」
「ん」
 僅かに顔を赤らめ傷の治療をするミーアと、それを見守る俺。
 時間を告げるアラームが、いつまでも鳴り響いていた。

     ◇     ◆     ◇

 頭上には昼を大分過ぎ、やや勢いを潜めた太陽。
 白く輝く球形以外は一面の青に塗られた景色をぼんやりと眺めながら、
(俺は何をやってるんだろう……?)
 そんな事を思わないでもない。

 スワンプダンジョンを出た俺達はスワンプ入り口、メガロポリスを経由してセレモニアに来ていた。
 昔つるんでいた頃の指定席だった芝生の上に陣取ったミーアはここで待ってて、と言い残しどこかへ行ってしまった。
 そんな訳で、現在俺は絶賛手持ち無沙汰中。
(暇だ……)
 何をするでもなく、空を眺めていたのだが。
 ――突然、首筋に冷たい感触が触れた。
「ひゃっ!?」
 思わず飛びのく俺。振り返った先には両手にカップを持ち、にやにや笑いを抑えきれない様子のミーアが立っていた。
「『ひゃっ!?』だって。女の子みたい」
「……うるさい」
 憮然とした表情で芝生に座り直す。ミーアは俺の隣に座ると、手にしたカップの片方を手渡した。
 カップを受け取ってから、ふとスワンプダンジョンでの約束を思い出し。
「そう言えば。さっきのゲームに負けた方がこの後おごりじゃなかったっけ?」
 アラームが鳴った時点で俺の倒したモンスターの数が106、ミーアが109だった筈だ。
 財布を出す俺にミーアはひらひらと手を振って、
「いいじゃない。助けてくれたお礼、って事で」
 自分のカップにストローを挿して飲みながら。照れたように、少し怒ったようにミーアが言った。
「それとも、何かご不満でも?」
「滅相もない」
 首を振る俺にそう、と呟き、ミーアはお茶をもう一口。
 僅かに肩をすくめてから俺もストローを挿し、緑色のお茶を口に含――
「――なあ、ミーア」
「ん?」
「これ、何てお茶だ? というか、お茶か?」
 半目で尋ねた俺にミーアは記憶を辿るようにんー、と唸る。
「確か、『アンチ・マテリアル茶』って書いてあったかしら。マテ茶の親戚かしらね?」
「違う! つーか何でゲテモノメニューが存在するんだよここにっ!」
 思わずツッコんでいた。
 ミーアは交換しろー、交換しろー、と訴える俺の視線など知らん振りをして自分のお茶を飲んでいる。
 俺は諦めて、内容物不明の飲料をもう一口。暫く、特に会話もなく二人で飲み物を飲んでいた。
 俺のカップが半分ほどになったところで、
「んー、気持ちいいー!」
 見ればお茶を飲み終えたミーアが、芝生の上にごろんと寝転がっていた。
「行儀悪いぞ」
「いいじゃない。折角の天気なんだし」
 よく分からない言い訳をして、ミーアは頭上に輝く太陽に目を細める。
「……そういえば。セウルス君は元気?」
「元気だよ。最近は『ココアパウダーが出ない。これはドン・カバリアの陰謀に違いない』とか言いながらローズガーデンに入り浸ってる」
「あはは。幸薄そうだもんねー、彼。……フェン君とレニィちゃんは?」
 話しているのは二人の共通の友人達の近況だ。
「相変わらずラブラブ。むしろ前より仲良くなったんじゃないか?」
「そう。微笑ましいじゃない」
「のろけ話を聞かされる俺の身にもなってくれ。最近はのろけ方に節度がなくなってきて、所構わずのろけるぞあの二人」
「あー、それは……」
 複雑な顔をして口を閉じるミーア。気を取り直すように表情を緩め、
「でも、そっか。みんな元気でやってるんだ」
「そうだな。去っちまった奴もいるけど、大体みんな元気だ」
 続く言葉を口にするのは、それなりの勇気が要った。
「ミーアも、元気にしてるみたいだし。……これでも、少しは心配してたからな」
「あー。ゴメンね? 何か色々忙しくなっちゃって」
 起き上がり、告げる表情は眉尻を下げたもの。困ったような力ない笑みで、
「何度かこっちに来る機会はあったの。でも、来れなかった」
「来れなかった?」
「怖かったの。こっちに来て、変わった皆を見るのが」
 ――時の流れから、一人だけ取り残されたみたいで。
 俯き、表情の見えないままぽつりとミーアは呟いた。顔を上げ、見えたのは一見無表情。その下に隠れた感情は――寂しさ、だろうか。
 俺が声をかける前に、ミーアの口が開いた。その声は明るくて、俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「だから、エイル君に会ったときはホッとしたの。君は昔と変わってないな、って」
 そこまで告げて、ふとミーアは苦笑した。その顔は僅かに嬉しそうで。
「でも、ちょっと違ったみたい。だって」
 彼女の手がそっと、真新しい包帯の巻かれた俺の左腕に触れた。
「昔は私の後ろで震えてばっかりだったエイル君が……」
 僅かに目を細め、ミーアの手が包帯の上をなぞっている。
「今日こうして、私を護ってくれるようになった」
「……頑張ったからな」
 昔、彼女が俺を連れ回していた頃。
 いつも俺を護って戦っていた彼女の、その頼れる背中を見ながら。いつか並んで戦えるような存在になりたい、と。
 ――その願いは、きっと果たされた。
 心の中だけの声は、けれどきっとミーアにも届いていたのだろう。
「うん……」
「それに、さ」
 頷くミーアに向け、言葉を続ける。
 今のテンションなら、何でも言える気がして。前を向きながら、それでも言葉は止まらなかった。
「会えなかった時間は埋まらないけど。その分開いた心の距離は、いくらでも埋められると思うんだ、俺は」
 すぐには無理かもしれないけれど。いつもの日常を繰り返すことで、確実に。
 そっちはどう思う、とミーアへ視線を向ける。
 彼女は目を丸くして驚いて。やがて、
「ありがとう」
 とてもキレイな顔で笑った。
「これ、今日何度目の『ありがとう』だろうね?」
「……知るか」
 俺は顔を赤くして。ぶっきらぼうに返した。

     ◇     ◆     ◇

 山の稜線へと沈んでいく太陽が、辺り一面を紅に染めている。
 俺とミーアはメガロポリスに居た。
 露店の店じまいをして家に帰る人々。辺りが暗くなるまで遊んでいようとする人々。そんな人々に混じって、俺達は別れの挨拶を交わしていた。
「今日はありがとう。久々に楽しかった」
「俺も……楽しかった」
 ミーアは紅色の世界の中、幻のように笑った。
「じゃあね」
「ああ」
 小さく手を振って、踵を返して帰っていく。
(別れって言っても、案外あっさりしたもんだな)
 次に会う約束も、また会える保証もないのに。
 俺はその後姿を寂しいような、悲しいような気持ちで眺め――唐突にミーアが振り返った。
「そうだ、忘れてた」
 小走りで俺の方に戻ってくる。
「エイル君、ちょっと屈んでくれる?」
 怪しげな含み笑いをしながらのミーアの言葉。一抹の不安を感じつつ言われた通り身を屈める。
「えへへー」
 ミーアは嬉しそうに眉を下げると、俺の顔を両手でホールドして、
「んっ」

 そのまま、俺の唇に自分の唇を触れ合わせた。

「――っ」
 たっぷり三秒ほど経って、ようやく俺は解放された。と同時に冷静な思考が戻ってくる。
「お、おまっ……!」
 自分の顔が瞬間的に顔どころか耳まで真っ赤に染まったのがわかる。恥ずかしさのあまり爆死するかと思った。
 何をする、と言おうとミーアを見ると、彼女も顔を真っ赤にしている。問いただすような俺の視線に気付くと恥ずかしそうに俯いて、
「乙女心と、恋心。エイル君に預けたから」
「え?」
「必ず、返して貰いに来るから……だから」
 ――また会う時まで、無くしちゃ嫌だよ。そんなミーアの声が聞こえた。
「…………」
 俺は何だか急に微笑ましくなって。ミーアの頭に掌を載せ、ぐりぐりと撫でた。
「分かった。大事に取っておく」
「……ん」
 気持ち良さそうに目を細め、小さく頷いた。ゆっくりと俺から離れると踵を返し、小走りに帰っていく。
 見送る俺にこれが最後、とばかりに振り返って、
「浮気なんてしちゃダメだからねー!」
 往来の中、そんな事を大声で叫ぶ彼女にするかバカ、と呟いて。
 俺と彼女の束の間の再開はこうして幕を閉じた。



 俺の胸に暖かな気持ちと。
 未来へと繋がる、約束を残して。
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  1. 2006/06/17(土) 18:50:49|
  2. 小説|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:3

  

コメント

『真夏の』四方山話

 これを読んでいる、あなた様。読了下さり感謝感激です。
 まだ読んでいない場合は本編を先にお楽しみ下さいませ(笑)
 さて。ここでは四方山話、という事でちょっとした制作秘話のようなものをお話しようと思います。



 今回のお話は獅子と猫がメインだったのですが、執筆当初は狸と猫のお話でした。
 そのキャストで順調に筆は進んでいたのですが、あるシーンでどうしても詰まってしまいまして。
 悩んだ結果、急遽キャストを変更する事に。
 そのシーンは……お気づきの方も居るかも知れません、戦闘シーンです。
 狸の戦い方を知らない私が狸の戦闘シーンを書ける筈も無く。代わりに獅子を据えると、あらまぁどうした事でしょう、筆がスイスイ進むではありませんか(笑)

 と、まぁそんな経緯もあってか、(特に序盤)エイルの性格が微妙に狸っぽいです。
 ……これはこれで結構好きなのですが。

 次に小説を書くなら、リベンジという事で狸のお話にしようかなぁ、と愚考する所存です(笑)



 四方山話にまでお付き合い下さりありがとうございます。
 今作に限らず、二作目、三作目と皆さんの元に小説をお届けできるよう頑張っていきたいと思います。

 それでは、また何処かでお会いしましょう。
  1. 2006/06/17(土) 19:05:38 |
  2. URL |
  3. ウェアホース #-
  4. [ 編集]

こんばんはです。

まずは、小説作成おつかれさまでした。
そして、読むことが出来た事に感謝です。

ああなんか……熱くとろけるほどのラブ
でも、さわやかみたいな……青春を感じました ><

獅子が主人公、ということで
これはウェロさんの実体験!?なんて美味しい事を(ry
とか思ってました。アトガキをみるまでは。w


次回作も、勝手ながら楽しみに待ってます。
  1. 2006/06/18(日) 03:03:36 |
  2. URL |
  3. Weiβ-r #nmxoCd6A
  4. [ 編集]

>ヴァーさん
 読了ありがとうございます。
 今回はド本命ストレートなボーイミーツガールもので勝負してみました。
 全く、こちらが羨ましいくらいに青春している二人です(笑)

 これが実体験だったらどんなに素晴らしいことか、とは思いますが……残念ながら違うのですよねぇ。

 それでは。次回作(?)をお楽しみに。
  1. 2006/06/18(日) 22:21:07 |
  2. URL |
  3. ウェアホース #-
  4. [ 編集]

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